働きながら年金をもらう場合、年金がカットされることがあります。仕組みを理解し、自分に合った働き方を選びましょう。
厚生年金加入で働くときは年金カットに注意
近年は、60歳以上の定年退職者を、そのまま雇用するように義務づけたこともあり、退職者の多くが65歳まで同じ会社で働ける環境になりました。定年後も、年金を受け取りながら働くという人も多いでしょう。
注意したいのは、給与の額によっては、受け取るはずの「老齢厚生年金」の一部、もしくは全額がカット（減額）されてしまう場合があることです。このような仕組みを「在職老齢年金の制度」といいます。
具体的に、年金カットの対象となるのは、厚生年金に加入して働いている人です。自営業の人や、パートなど厚生年金に加入しないで働く人は、年金がカットされることはありません。減額方法は年齢や、給与の額などによって決まっています。
また、カットされるのは、老齢厚生年金部分です。「老齢基礎年金」については、どのような働き方をしても、いくら給与をもらっても、カットされることはありません。
年金「カットの壁」は28万円と47万円
●65歳未満は「28万円」
60～65未満の人は、年金と給与（いずれも月額）の合計が「28万円以下」なら、年金はカットされません。年金が「28万円以下」で、給与が「47万円以下」なら、2つの合計の「28万円を超えた部分」の半分が支給カットとなります。たとえば、年金が10万円、給与が20万円、合わせて30万円の人は、「30万円－28万円」の半分の額が支給カットされます。このケースのカット額は１万円です。 ここでいう給与の額には、ボーナスの額も反映されます。つまり、給与は毎月の給与（標準報酬月額）の年間合計と1年間のボーナス（標準賞与額）を足して、12で割った額です。たとえば、毎月給与20万円に、ボーナスを年間36万円もらっていれば、240万円＋36万円÷12＝23万円が計算上の給与額です。
なお、あまり多くないケースでしょうが、給与が47万円を超える人は、減額される額はさらに大きくなります。
●65歳以上は「47万円」
65歳以上70歳未満の人は、年金と給与（いずれも月額）の合計が「47万円以下」なら、年金はカットされません。年金と給与の合計が47万円を超える場合は、超えた部分の半分が支給カットとなります。
年金は減額されても厚生年金のメリットは大
「年金がカットされるのは本意でない」という人もいるでしょう。年金受給開始後は、パートや自営業など、厚生年金に加入しないで働く方法を選ぶのも1つです。
しかし、厚生年金に加入して働くことで、メリットもあります。定年後も引き続き厚生年金に加入し続けるので、後の年金額は、最初の定年時に決まっていた年金額よりも多くなります。つまり、生涯にわたって、増額した年金を、受け取り続けることができるのです。
また、60歳未満の妻がいる場合、サラリーマンの妻のままでいられるため、国民年金保険料を支払う必要はありません。会社の健康保険にも加入できるので、国民健康保険に切り替えずに済みます。会社が保険料を半分負担してくれるため、多くの場合、保険料の負担は小さくて済むでしょう。また、健康保険組合によっては、プラスの傷病手当金や人間ドックの費用の援助なども受けられます。
目先の年金が減ることばかりにとらわれず、メリット全般を見渡し、働き方を決めましょう。
知っておこう「厚生年金の加入対象の拡大」
平成28年10月からは、厚生年金への加入ルールが変わり、より多くの人が加入できる方向に拡大されます。年金をカットされないよう、パートや派遣で働いている人や、働こうと考えている人は注目しておきましょう。
つぎのような条件を全て満たすとき、厚生年金への加入が義務となります。
【勤務時間】週20時間以上
【月額賃金】8.8万円（年収106万円）以上
【雇用期間】1年以上
【従業員】501人以上の企業に勤務 わざわざパートや派遣で働くことを選んだのに、結局、厚生年金に加入するはめになったというケースも出てきそうです。あらかじめ、勤務先に厚生年金に加入しないままの勤務が可能か相談し、勤務時間や日数を決めることが必要です。
とはいえ、年金をカットされたくないからと、働く時間を減らせば、家計収入は減ってしまいます。パートでも、厚生年金に加入することで、得られるメリットも大きいはずです。健康なら、これを機会に働く時間を増やすことも検討したいところです。
